京都大学大学院工学研究科 工学基盤教育研究センター

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2021年度グローバル・リーダーシップセミナーⅡ実施の様子

グローバル・リーダーシップセミナーⅡ(イノベーションとその事業化)では、社会が京大生に求める、自ら課題を見出し、解決への道筋を提示するという能力を身につけることを目指します。工学系の様々な分野の学生・教員に加え、イノベーションの最前線で活躍している方々を招き、専門分野や産学の垣根を超えたメンバーでワークショップ形式の議論を行うという、京大の数ある授業のなかでも特にユニークな授業です。出席は取りませんし予備知識も求めません。受講生に求められるものはやる気です!

ここでは2021年度の授業の様子を紹介します。2021年度は担当教員2名での実施となりました。今年度は桂図書館・産官学連携本部の強力なサポートにより、学生たちのアイデアを具現化するためのかなりまとまった資金の支援がありました。「来年度以降の資金拠出の有無は、君たちの成果物の首尾に掛かっているんだよ!!」とハッパ(プレッシャー?)を掛けながらも、学生たちのアイデアを形にするための物品購入・役務発注に十二分な資金量に、教員がプレッシャーに押しつぶされそうです。

著名な開発者・研究者によるオンラインセミナー・オンサイトセミナー

第1回から第3回の講義は、著名な開発者・研究者によるセミナーです。いきなりイノベーションだの事業化だの言われても、学生にはピンときません。そこで、世界を変える数多くの発明を生み出した功績によって紫綬褒章、旭日小綬章を受賞された大嶋光昭先生、京都大学工学部長・副学長を歴任し、現在はベンチャー育成に力を注ぐ西本清一先生、そして大会社におけるイノベーションを成し遂げ入社2年目にして統括課長に就任した對馬哲平先生に講演を頂きました。コロナ禍の緊急事態宣言明け直後ではありましたが、大学の方針に則り最初の2回はZoomによるオンライン形式、第3回は講義室での対面形式となりました。

  • 10/8 第1回: 大嶋光昭 京都大学特命教授・パナソニック(株) 名誉技監
  • 10/15 第2回: 對馬哲平 京都大学特命教員・ソニー(株)モバイルコミュニケーションズ事業本部 wena事業室 統括課長
  • 10/22 第3回: 西本清一 京都大学名誉教授・公益財団法人 京都高度技術研究所 理事長

アイデアを出し練り上げていく、対面グループワーク(前半)

実施日:10/29, 11/5, 12, 26

学生たちはセミナーを通じて、どのようにアイデアを生み出すか、そのアイデアを具体化するか、それによってどのように社会にイノベーションを起こしていくのか、についてメンターたちの迫真の講義によって肌で知ることができました。しかし、実際に学生たちが自分の頭を使い、手を動かさない限りは何も生み出されませんし、前にも進みません!

兎にも角にも、受講生たちのアイデアがないと話が始まりません。目指すは大袈裟に言えば社会を変革するアイデアなのですが、なかなかそう都合良くアイデアを持っていたり、すぐに出てきたりするものではありません。まずは的をある程度絞って思いつきやすくする必要がありそうです。そこで、実装場所の候補は京都市や京都大学(桂キャンパス)とし、自分が感じる身近な課題を解決する手法を考えて貰うことにしました。教員から、桂キャンパスで実装可能な、コロナ禍を踏まえ密を避けるための入場者数カウンターのアイデアがサンプルとして提示され、また大学での研究からベンチャー起業へと至ったエピソードなどが披露されました。その後も教員と学生で議論を重ねるうちに、徐々に学生たちの考えが具体的にまとまってきて、自分たちの目指す方向性が見えてきました。最終的に、1名で行うプロジェクトが2つ、2名で行うプロジェクトが1つの、計3チームが構成されました。チームと言ってもそれぞれがバラバラな訳ではなく、講義ではお互いに意見を出し合いながらブラッシュアップに努めるなど、和気藹々と進んでいきます。いずれも自分たちを取り巻く現在の課題を上手く捉えたうえで、それを解消するためのアイデアに基づく素晴らしいプロジェクトであり、完成が楽しみです。

イベント:終日ディスカッション

実施日:11/27

この日は土曜日にも係わらず、学生のアイデアを練り上げるために、学生・教員・メンターが午前10時半から午後5時まで講義室で熱い議論を交わしました。コロナ禍前だとバスで宿泊所に移動して宿泊合宿を行っていたのですが、コロナ禍のためそうも行きません。代わりにこの終日ディスカッションが設けられましたが、「宿泊所で飲み食いしながらワイワイ合宿」から「講義室に1日缶詰で丁々発止」へのあまりの落差に戦慄を禁じ得ません。この講義を通じてイノベーションを起こそうとする本気度が伝わる硬派な(?)一日となりました。

この日は担当教員以外にERセンターから講師の先生が2名、セミナーをして頂いた大嶋先生、西本先生が講義室に来て頂き、また對馬先生がオンラインで参加してくれました。加えて、

  • 青山秀紀 パナソニック(株)コーポレート戦略・技術部門 事業開発室 主任技師
  • 向井務 パナソニック(株)コーポレート戦略・技術部門 インテリジェンスグループ 主幹

のご両名もメンターとして参加頂きました。青山様からは企業における開発から上市までのサイクルについて、向井様からはイスラエルでのイノベーションについての紹介などを頂きました。まさに産業界の第一線で活躍されている方からのアドバイスに、学生たちのアイデアもどんどん固まってきます。メンターの方たちから繰り返し指摘されたことは、「商品・サービスは消費者がいてこそ市場での存在価値があるため、しっかりのユーザーのニーズを掴むべく調査しなくてはいけない」ということでした。学生たちはこの日も含め、その後しっかりと自分たちの”足で稼いだ”情報を元に、アイデアの具現化に務めていました。自分たちのアイデアを他人に話して理解して貰い、その上で彼ら・彼女らから情報を取得して、それを自分たちのアイデアにフィードバックすることは、それほど容易いことではありません。それにも係わらず、どのチームもこれをしっかり行ったことに、とても感心しました。

アイデアを出し練り上げていく、対面グループワーク(後半)

実施日:12/3, 10, 17, 1/11

いよいよ講義も後半戦に突入です。この頃から、固まってきたアイデアを具現化すべく、ついに潤沢な資金が火を噴き、学生たちの要請に基づいて物品の発注、役務の発注が進んでいきます。発注をさばく教員や事務方も火を噴く忙しさです。実際に製作に進むと、やはり思い通りにいかないことばかりです。今の世界にないものを作ろうとするのですから、これまで作られてこなかったことには理由がある可能性が高いのです。それは、誰も思いついていないアイデアであるならば美しいストーリーなのですが、それほど皆が必要と思っていないモノであったり、技術的に現実化が難しいモノであったりする事もあり得ます。やはりアイデアをモノやサービスに落とし込むには並大抵でない苦労が必要で、そこは試行錯誤が求められます。試作を繰り返しながらの理想と自分の技術力の摺り合わせもまた、大事な作業です。

この頃には、1/22に桂図書館にてベンチャーに係わる2名の方を審査員としてお迎えした「ビジネスプラン発表会」が開催されることが決まっていました。学生たちが具現化したアイデアを、ベンチャービジネスの第一線で活躍されている方々に直接審査して貰うという、本気のイベントです。それに向けて学生たちの製作にも一段と熱が入り、当初は予定されていなかった1/11の講義も急遽開講、直前の詰めの作業を行うこととなりました。

イベント:ビジネスプラン発表会

  • 日時:2022年1月22日(土) 14:00-17:00
  • 場所:京都大学桂キャンパスBクラスター 桂図書館2階 リサーチコモンズ

フライヤー(チラシ)

審査員に

  • 黒川尚徳 (株)東京大学エッジキャピタルパートナーズ パートナー
  • 矢野貴文 (株)RUTILEA 代表取締役社長

のご両名をお迎えしました。

更にこれまで継続的にご協力を賜ってきたメンター5名の方にも講評者としてご参加頂きました(1名はオンライン参加です)。

あまりにも豪華なメンバーと、下の写真から分かる立派な舞台に学生たちは物怖じするかと思いきや、みな堂々とした発表です。

発表1. 「新しい飲み物のカタチ 『ポータブル温度調節機』」

最初の発表は、従来の飲み物の飲み方の概念を変える、温度調節機能付きストローについてです。

夏にカフェなどで冷たい飲み物を飲んでいると、どうしても時間の経過と共にすぐにぬるくなってしまったり、結露で外側が濡れてしまうことは避けられません。そこで、液体全体を冷やすのではなく、飲む分だけその都度冷やせば良いのではないか、というのが彼のアイデアで、言わば「冷却ストロー」です。細い管を通った液体を”温める”のは、コーヒーメーカーなどで巷にあふれていますが、逆に”冷やす”というのは彼独自のアイデアで、また難しいところでもあります。単にストローに氷を巻き付けるだけでは全く冷えないことを実証した上で、どのような冷却器を使えば冷えるか、どのような管形状だと人が飲んだ時に冷えたと実感できるほど冷えるか、などについて試行錯誤を繰り返した様がプレゼンからひしひしと伝わってきます。皆がどれくらいのペースで飲んでいるかをカフェで陣取って観察してきたことが披露されると、会場が沸きました。試作機を配って審査員・評価員に配布し、実際に常温のペットボトルの飲料が冷却されて飲めることを確認して貰いました。必要量を冷やすことができればアイスが不要になる”アイスレス”の概念が普及し、ひいては氷を作るために使われている膨大な電力が不要になるだろう、と、自分のアイデアをSDGsの文脈でもしっかり捉えていました。

発表2. 「1人ぐらしの学生に向けたメンタルケアロボット」

次の発表は、コロナ禍で生じた学生たちの問題を解決しようという、高い志を持ったものです。

コロナ禍の大学では講義がオンライン化したことで、特に一人暮らしの学生は他の人と交わる機会が大幅に減少し、精神面で不調を来すことが多くなっています。発表者は、実際にそのような精神面の不調を訴える友人の声を聞いて、精神的な癒やしをもたらす”メンタルケアロボット”を着想しました。これまでの愛玩ロボットはいずれも小型で人が抱きかかえることを想定していますが、発想を逆転させ、「ロボットに抱きかかえられる」をコンセプトにしたところが斬新なところです。自分の友人たち15人に聞き込みを行い、メンタル不調時にどのようなものを欲しているか、自分の製作イメージはそれを解消することができそうか、などをアイデアにフィードバックしながら製作に取りくみます。最終的に固まったのが、通常時はイスのような日常空間に溶け込む実用物でありつつも、精神的な癒やしを求める時には空気圧で膨らんで抱きしてくれる、”びっくり箱”スタイルのメンタルケアロボットです。会場では、実際にエアー注入によって箱に入っていたぬいぐるみが巨大化していく様が実演され、かなりのインパクトでした。こちらからの働きかけでなく、こちらの不調を察して動作してくれることが要諦である事から、スマートスピーカーなどと連動したシステムの構築などが今後の方向性として示されました。

発表3. 「Listener Checker」

2人1組で実施した最後の発表は、コロナ禍における大学での学びの質を教員・学生の両面で向上させようという取り組みです。

ここ2年、日常となったオンライン講義ですが、良くあるパターンは教員側が画面共有で解説しつつ、学生側はカメラ・マイクは基本的にオフというものです。教員側の情報を学生側に一方向に伝える分にはこれで必要十分かもしれませんが、対面講義と異なるところは、学生側の応答が教員には感じられず、学生側も他の学生の雰囲気や空気感を感じられないことです。発表者たちの聞き込み調査により、この問題によって教員側はモチベーションの維持が困難になり、学生側は自分の理解度に対する不安感が惹起される他、集中力の低下といった問題が生じていることが分かりました。これを解決するために、学生の様子・場の雰囲気を可視化できるアプリケーションを開発しようと着想しました。講義で使うためには、必要な機能を備えつつもシンプルにしなくては、結局使いにくくなったり集中力を削ぐ要因となったりします。この点に配慮しながら、コメント機能や数を絞ったスタンプによって、”場のテンション”を可視化する仕組みを構築しました。学生のコメントやスタンプはリアルタイムで画面上に表示され、教員側はリスト化されたコメントの中で重要なもの・対応が必要なものにチェックを入れることで、後の振り返りが容易となっています。また、スタンプ数によって、盛り上がり・通常・盛り下がり、の3つの状態を表示させ、学生の理解度を教員にわかりやすく示せるようにしました。アイデアに留まらず、実際にプログラムとして実装され、デモ動画によってその様子が示されたことで、会場からは感心する声が漏れました。

イベントを終えて

実際にベンチャーへの投資判断を行っている黒川様やベンチャーを2つも起業しておられる矢野様より、現場で活躍している方しか分からない視座から、発表者に対して多くのコメント、改善提案、励ましなどが送られました。また、講義を通じて常に建設的なフィードバックをして頂いた講評者の方々からも多くのコメントを頂きました。自分たちのアイデアを披露し、第一線の方々から審査・講評頂くことはめったにある機会ではなく、そのチャンスを十分活かしてやりきった受講生たちには感心するほかありません。学生たちは、この経験を糧に、活躍の場を広げて欲しいと思いました。