京都大学大学院工学研究科 工学基盤教育研究センター

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2023年度グローバル・リーダーシップセミナーⅡ実施の様子

グローバル・リーダーシップセミナーⅡ(イノベーションとその事業化)では、社会が京大生に求める、自ら課題を見出し、解決への道筋を提示するという能力を身につけることを目指します。工学系の様々な分野の学生・教員に加え、イノベーションの最前線で活躍している方々を招き、専門分野や産学の垣根を超えたメンバーでワークショップ形式の議論を行うという、京大の数ある授業のなかでも特にユニークな授業です。出席は取りませんし予備知識も求めません。それほど多額ではありませんが、アイデアを形にするための試作費も提供されます。受講生に求められるものはやる気です!

ここでは2023年度の授業の様子を紹介します。
2023年度は講義12回、合宿1回、発表イベント1回の実施となりました。1単位の集中講義ですが、合宿を含めると2単位の講義以上の時間を費やすことになりました。今年度は最終履修登録者10名と、昨年度に続き10名を超える履修者となり、ワイワイとした雰囲気で講義が進行しました。また、昨年度に引き続き、理学部からも1名が聴講願を提出して参加してくれることになりました。履修者たちは、多くが心に秘めたアイデアを複数持っており、講義を通じてそれを実現するという意欲に溢れていました。もちろん、まだ具体的ではない漠然としたイメージだけだったり、ものづくりのアイデアだけ持っていて実現手法についてははっきりしていない人もいますが、そのような人たちも大歓迎!多くの人が集まると、ある人のできないところを他の人が補ってくれます。それがチームの良さであり、チームができたり講義の回数を重ねるにつれて、段々しっかりとしたイメージが形作られていきます。

 

著名な開発者・研究者によるオンサイトセミナー

第2,4,5回の講義は、著名な開発者・研究者によるセミナーです。多くのことを成し遂げてきた先達の話を聞いて、イノベーションや事業化の”勘所”を学ぶことは大事です。

そこで、半導体材料創出で多くの成果を挙げてきた立命館大学教授の金子健太郎先生、世界を変える数多くの発明を生み出した功績によって紫綬褒章、旭日小綬章を受賞されたパナソニックホールディングスの大嶋光昭先生、京都大学工学部長・副学長を歴任し、現在はベンチャー育成に力を注ぐ西本清一先生に講演して頂きました。また、合宿においては、大企業におけるイノベーションを成し遂げ入社2年目にして統括課長に就任した對馬哲平様にオンラインで講演を頂きました。

  • 10/13 第2回: 金子健太郎 立命館大学教授
  • 11/10 第4回: 大嶋光昭 京都大学特命教授・パナソニックホールディングス(株) 名誉技監
  • 11/17 第5回: 西本清一 京都大学名誉教授・公益財団法人 京都高度技術研究所 理事長
  • 12/02 合宿 : 對馬哲平 ソニー(株)モバイルコミュニケーションズ事業本部 wena事業室 統括課長

 

アイデアを出し練り上げていく、対面グループワーク(前半)

実施日:10/6, 27, 12/1

10/6の第1回講義で、講義の趣旨や大まかな流れを説明します。本講義は基本的にグループワークによって、自分たちのアイデアを形にし、それがビジネスとして成立するかどうかを磨いていく、という流れで進みます。そのため、グループ・チームを組むことを勧めていますが、個人でやりたいことが固まっている人は個人製作をしても良いということにしています。第1回はチュートリアルなので、グループ分けまでは進められません。

そこで、10/27の第3回講義で、パナソニックホールディングス(株)主任技師の青山秀紀様を外部講師としてお招きし、「アイディエーションのためのグループワークとチームビルディング」という題で講演をして貰いました。「アイディエーション」とはコンセプトやテーマに沿って発想されたアイデアスケッチのことなんだって!共通のお題に対するブレインストーミングに続いて、履修者同士の親睦を深めるアクティビティ、マシュマロチャレンジをしました。ルールは簡単で、各グループ4名程度とし、決められた時間の間に乾パスタ十数本、テープ、ひもなどを作って安定な構造物を作り、最も高いところにマシュマロを刺せたチームが優勝、というものです。優勝チームは53cmという素晴らしい記録で、昨年度の優勝記録48cmを超えました!

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どのチームも製作終了後の計測タイムにタワーが崩壊することもなくしっかりと記録が残りました。他チームも33cm、45cmと好記録です。

教員と学生で議論を重ねるうちに、徐々に学生たちの考えが具体的にまとまってきて、自分たちの目指す方向性が見えてきました。大袈裟に言えば、志を同じくする人たちがグループを組み、最終的に、チームプロジェクトが3つ、個人製作が2つという形でまとまりました。チームに所属しつつも個人製作をする学生もいます。

 

合宿@あうる京北

実施日:12/2,3

本講義の大きな特色の一つは、教員と学生、外部メンターが合宿を行う、ということにあります。昨年度は関西セミナーハウスにて紅葉の綺麗な11月の最終土日に実施しましたが、今年はあうる京北にて初冬を感じさせる寒さの中行われました。もう製作するしかやることないよという山奥で足かけ24時間にわたる合宿では、学生10名の他、教員2名、外部講師5名が参加しました。合宿のお楽しみの一つは夜の製作終了後の懇親会です。学生同士、あるいは教員・メンターと学生で真面目な話からざっくばらんな話までおしゃべりに花が咲き、気付けばとっくに日が変わっていたなんてことに。

對馬様からソニーにおいてどのようにしてwena事業をイチから興していったのかについてのオンライン講演を頂きました。さらに 向井務 パナソニックホールディングス(株)コーポレート戦略・技術部門 インテリジェンスグループ 上席主査 からはイスラエルにおけるイノベーションの実相(内緒話?)など、普段聞くことのできない話を伺い、かなり盛り上がりました。最後に簡単な成果発表をして、合宿は幕を下ろすことになりました。

メンターの方、特に對馬様から繰り返し指摘されたことは、「商品・サービスは消費者がいてこそ市場での存在価値があるため、しっかりのユーザーのニーズを掴むべく調査しなくてはいけない」ということでした。要するに、潜在的な顧客の「解像度を上げる」ということです。すなわち、一つの事象やフローを適切に要素分解した上で、それらを上手く把握し、優先順位を付けていくという作業になります。学生たちは”足で稼いだ”情報を元に潜在顧客のイメージを掴み、ビジネスアイデアの具現化に務めていました。自分たちのアイデアを他人に話して理解して貰い、その上で彼ら・彼女らから情報を取得して、それを自分たちのアイデアにフィードバックすることは、それほど容易いことではありません。

group photo at the camp

 

アイデアを出し練り上げていく、対面グループワーク(後半)

実施日:12/8, 15, 22, 1/5, 12, 19

合宿も終わり、いよいよ講義も後半戦に突入です。今年は日程の関係上、後半の講義日が多くなりました。ほとんどのグループはアイデアが固まっているので、この頃からは講義の時間中はグループごとに集まって製作に勤しんでいます。もちろん、講義の時間中だけではできないので、自宅に帰ってから行う仕事の分担を決めたりといった作業も、講義時間の重要な役割です。チームメンバーはSNSで密にやりとりをしています。

12/15には、博士課程在学中に起業したマイクロエンジニアリング専攻D3の清瀬俊さんから、起業に至った経緯やビジネスのコアとなる技術の説明などのミニ講演をして貰いました。清瀬さんは令和4年度の工学研究科長賞を受賞したり、Forbes Japanに掲載されたりと大活躍中です。12/22には、産学官連携本部 事業推進部 知的財産部門の冨澤浩之さんから、知的財産・特許とは何か、特許に対する企業と大学の研究者の捉え方の違いなどについて、極めて実践的なミニ講演をしていただきました。特許網によって守りを固めるといった話は大変興味深かったです。

アイデアを煮詰めていくうちに、やはりこのビジネスプランでは市場に出しても勝ち残っていけない、ビジネスとして成立しにくい、顧客層や顧客ニーズがイメージしにくい、といった事実に気付く場合があります。それは、元のアイデアがしっかりしていなかったからではなく、むしろ時間を掛けて真剣にじっくりと検討した結果ようやく導き出せる結論であり、それにかけた時間はとても意義深いものです。そういった方向転換は、学生と教員が議論を重ねながら進めていきます。

実際に製作に進むと、思い通りにいかないことは多いです。既にマシュマロチャレンジで嫌というほど思い知ったとおりです。新しいモノやサービスを作ろうとするのだから、これまで存在しなかったことには理由がある可能性が高いのです。それは、誰も思いついていないアイデアであるならば美しいストーリーなのですが、それほど皆が必要と思っていないモノであったり、技術的に現実化が難しいモノであったりする事もあり得ます。やはりアイデアをモノやサービスに落とし込むには試行錯誤が必要で、試作を繰り返しながらの理想と自分の技術力の摺り合わせもまた、大事な作業です。

講義の終盤にあたる1/12, 19には、講義の集大成として1/20に桂ラウンジにて開催する「ビジネスプラン発表会」を見据えた作業を進めます。基本的にどのチームも発表会で完成品を披露する段階にまでは到達できないので、製作中のものは自らのビジネスプランにおいてどの地点にあるか、将来計画も含めて発表をどうまとめ上げるかについて講義を行います。また、本番での10分発表、15分質疑の持ち時間に、自分たちの思いの丈を過不足なく伝えるための練習も欠かせません。両日とも、本番に向けた発表練習をしっかりと行いました。

 

イベント:ビジネスプラン発表会

  • 日時:2024年1月20日(土) 13:00-16:00
  • 場所:京都大学桂キャンパスBクラスター 事務管理棟3階 桂ラウンジ

 

フライヤー(チラシ)

審査員として、京都大学産官学連携本部の

  • 木谷哲夫 特定教授 産官学連携本部 イノベーションマネジメントサイエンス起業・教育部

がオンラインでご参加くださいました。更にこれまで継続的にご協力を賜ってきたメンター4名の方にも講評者としてご参加頂きました(うち1名はオンライン参加です)。

各チーム・個人からの発表

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イベントを終えて

昨年に引き続き、著名な民間企業の要職を歴任し本学において起業家教育プログラムの開発・実施に従事しておられる木谷哲夫先生をお迎えし、多様な視座から、発表者に対して多くのコメント、改善提案、励ましなどが送られました。また、講義を通じて常にサポートをして頂いた講評者の方々からも多くのコメントを頂きました。自分たちのアイデアを披露し、第一線の方々から審査・講評頂くことはめったにあるものではなく、そのチャンスを十分活かしてやりきった受講生たちはとても素晴らしかったです。学生たちの今後に、この経験は必ず生きてくるはずです。

group photo at the event